寿司職人の経験が生きる仕入れと調理の一体感
鳥羽の漁港に水揚げされた魚介を毎朝自ら見定め、その日の状態に応じて刺身にするか焼きに回すかを判断する。江戸金の料理はこの初動の精度で決まっている。寿司職人としてのキャリアが培った素材への眼差しは、伊勢海老やサザエ、鰆といった伊勢志摩の代表的な魚種だけでなく、日替わりで入る小魚や貝類にも同じ基準で注がれる。手捏ね寿司や煮付けなど調理の幅が広い分、仕入れの段階で見極めが甘いと料理全体のバランスが崩れるという緊張感が厨房に常にある。
個人的には、メニューが「今日あるもの」で組み立てられている点が印象的だった。漁の状況や天候で並ぶ皿が変わるため、前回と同じ注文が通らないこともあるらしい。牡蠣が大量に揚がった日は牡蠣づくしのコースが急遽登場するなど、固定の献立に縛られない運営をしている。こうした日替わりの構成を楽しみにリピートする常連が少なくないという。
三重の地酒と鳥羽の魚が同じ卓で交わる夜
作、半蔵、瀧自慢、義左衛門、八兵衛——三重県内の酒蔵から仕入れた銘柄が江戸金のカウンターに並ぶ。定番だけで終わらず、小仕込みの限定品や季節限定の醸造酒も入荷のタイミングで入れ替わるため、酒の品揃えにも「旬」がある。料理との組み合わせを前提に選ばれているから、地魚の刺身に合わせて一杯頼むとその意図が自然に伝わってくる。日本酒に詳しくなくても、その場で相談すれば料理に合う一本を提案してもらえる。
「ここで飲む地酒は居酒屋というより専門店に近い」という声が目立つ。県外から鳥羽を訪れた旅行客が、観光ついでに地酒を試す場としても利用しているようだ。瓶で見かけたことのない銘柄に出会えることもあり、酒好きにとっては食事と同じくらい酒の選択肢に惹かれる店になっている。
観光動線のなかに自然と収まる立地と使い勝手
近鉄志摩線の志摩赤崎駅から車でおよそ4分、無料駐車場を備えた場所にある。鳥羽水族館や市民の森公園など周辺施設との距離が近く、観光のあとにそのまま流れてくる客も多い。電話予約に加えてホットペッパーグルメからのオンライン予約にも対応しており、旅行中のスケジュールに組み込みやすい。バリアフリー設計が施された店内はカウンター席が中心で、車椅子での来店にも対応している。
ひとりでふらりと立ち寄る地元客から、家族連れの夕食、宴会や二次会の利用まで客層に幅がある。記念日に使うケースもあるようで、用途を限定しない受け皿の広さが日常使いの店として根づいた理由だろう。駐車場が無料という点は、車移動が基本の鳥羽エリアでは地味に大きい。
一皿に妥協しない姿勢が生む継続的な信頼
江戸金が創業から変えていないのは、仕入れ・下処理・調理・提供までの全工程で手を抜かないという原則だ。季節ごとに更新されるおすすめ料理は、その時期の素材の状態を反映して組み替えられている。固定メニューで回す効率より、素材の鮮度と旬を優先する運営方針が一貫しているため、初めて訪れた客にも鳥羽の海の実力がそのまま伝わる。地元の常連と旅行者の双方に同じ水準の料理を出す、という基本が揺らいでいない。
週末は予約で埋まる日もあると聞く。特に牡蠣のシーズンや伊勢海老の解禁時期は早めの連絡が無難だ。来店した客がSNSに投稿する刺身盛りの写真を見て訪れるケースも増えているらしく、口コミ経由の新規来店が途切れない状況が続いている。


